宿坊暮らし・初めまして
ぼくは士郎丸。
八月の声を聞くと大峯山上の宿坊の夜は小寒い。
原生林に囲まれた東の斜面に四軒。
ぼくの部屋は朝陽も夕陽も射し日当たりも1日中いいけど、宿坊の中は土間なのでひんやりしている。
土間は三和土(たたき)と言ってね、全部堅い土で出来ている。
雨や霧の日が長く続くと白カビや青カビまで生える、十年前に比べたら減ったけど。
真夏なのに今夜も豆炭炬燵に足を突っ込んでいる。
おや?鈴の音色が?!近付いて来る、こんな夜更けに。ブオーッ♪法螺貝だ。向かいの宿坊に入って行った。
この山は夜通し歩いてお参りに来る人たちも多い。 ぼくも昔はよく夜の山を登ったな。
ケモノの気配、見えないモノの気配、自分の気配、怖いけどやがて研ぎ澄まされてくる、その内、足下の山道も消えて上下も左右も無くなり全体になる…。
今は夜歩くことはなくなったけど、きょうも耳を澄ませば山の夜の音でからだが満たされてゆく。
明日は土曜日、忙しくなるといいな。
大峯山上豆知識
「納所」なっしょ、と訓む。宿坊の責任者。ホテルで言えば支配人のこと。
執事。帳場(フロント)に座して登拝客と応対する。士郎丸の仕事です。
by tamashifull
| 2011-07-29 23:58