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たましふる大峯~神崎士郎 なっしょのないしょ~

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一年の半分を奈良の世界遺産大峯山頂宿坊で暮らす写真家神崎士郎が綴る日々のあれこれ。見たこと見ないこと……。

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吊り橋の上から、たった今下りて来たばかりの山上ヶ岳の方を仰ぎ見る。きょうはひっさしぶりの日本晴れ。調子良く下りすぎて膝の辺りが少し痛い。
登山口の女人結界門を抜けてすぐ、石像が立ち並ぶ前を通り、森の中へ入り、山上川に沿って続く自然研究路を歩いて来た。至るところで山からの湧き水が流れ、苔むした岩根、濡れた石畳…と涼やかな木漏れ陽の道を進む。
ひとひら、ふたひら…赤ちゃんの掌ほどの大きさの蝶が何頭も川から森へと行ったり来たりしながら石畳を浸す水を吸っている。さっき見つけたルリコガネの風合いにも似た、光沢のある玉虫色の羽根が陽光に紛れて群青色の空に溶け込みながら飛び交っている。
どっどっどっ…一定のリズムを刻む水音が近くなる。かじかの滝だ。言われは極めて原始的な淡水魚の名から来ている。現在も棲息しているのだろうか。小さな滝だが滝壺のきわに石灰質の岩床が拡がり格好の休み場となっている。
滑りやすい岩場の道を抜け、小橋を渡り、林間の小道を出ると、この吊り橋のたもとである。ここにはコーモリの窟(いわや)とトーローの窟が在る。前者は「蝙蝠」の巣になっていること、そして行者様がお「籠り」になった場所ということから、また後者は山伏のうしろ姿がカマキリ(古い言い方で螳螂=とうろう)に似ていることからその修行(胎内くぐり)する場所として名付けられた。トーローの窟の中は入口から出口へと細く曲がりくねっており、手元の灯りを消すとぬばたまの闇である。
山上川を離れて温泉街の方へと向かう。表に薪を積み、大きな樹に抱かれた山荘風の小屋が在ることに気付く。今まで何度も通っている道なのに意識したことが無かった。季節の折々に隠れ人が暮らしている風である。前の原っぱにポツンと離れて錆びた物干しのようなものが見えるのがかわいい。
道を逸れて空地を横切ると角っこにこんもりとお稲荷さんがある。その時、前方から5、6人の行列がするするとこちらへやって来るのと出会う。その人たちはお稲荷さんの杜へと吸い込まれて行く。と、中のひとりの女性がぼくに向かってお辞儀をされた。ぼくも釣られてペコリと返し、近付いて見るとよく知っている神橋(かんばし)さんの奥さんだった。最後尾に御主人もいらっしゃって言葉を交わした。神橋さんは十数年前まで登山口から十分程上ったところの一の瀬で茶店を開かれていた。また山上へ運ぶ荷物の世話をされていた関係もあり面識があったのだ。きょうは月に一度の祭礼の日で、表通りに面した稲荷神社の横で町内の有志の方々が出店をされていると言われる。ぼくは何だか見知らぬ土地に迷いこんだような気持ちで細い路地を抜けて表へ出た。
なるほど道沿いに白テントが張られて在り、覗いてみると顔見知りの人たちがたこ焼きやら焼き鳥、アイスコーヒーを造って販売されていた。西崎さんは先年まで山上の龍泉寺で務めていらっしゃって、いつもお世話になってばかりだった。赤井さんは長らく洞川の中学校の校長先生を勤められて、現在は稲村ヶ岳の山小屋を守りされている。たこ焼きを注文して談笑していたら「シローサーン」との声と供に奥さんもいらっしゃった。赤井家にも御世話をかけっぱなしである。「山」という字は、左右末広がりに伸ばしていったら、「人」という字になる。想えば、大峯山を通してこれまでかけがえのない縁をどれ程頂いて来たことだろう。ありがたいと思うばかりである。
お赤飯のオムスビやジャガイモをお弁当にと渡され、赤井さんがバス停まで軽トラで送って下さった。深い森の奥から染み出たばかりのとろりとした水が小石の上を滑り下りるように戻ってゆくトラックにペコリとお辞儀をしたぼくは、ふと違和感を覚えた。手にしていた筈のおにぎりの包みが無い…。あれ?確かに持って助手席に乗り込んだよね。指先にその感触が残っているような感じがある。あれれ?おかしいなあ?待合室も見る。表のベンチも。無い!?
名水豆腐を買い求めるために旅館街まで少し戻る間も身の回りを確認したが見当たらない。バスに乗ってからも改めて見たがやはり無い。まるでキツネにつままれたような…えっ!そうかそうだったのか。お稲荷さんのお祭りだものね、あの人たちはみんな…。そう考えると、あの行列に遭遇した時からずっと不思議な胸に染みるような明るさの中にいたのだった。
[後日譚]
その日の売上は福島県南相馬で被災された人々に義援金として届けられた、と新聞記事で受け渡しの様子が写真と供に報じられていた。また、ひと月位して赤井さんにオムスビのことをたずねてみるときれいに「忘れていらっしゃいましたよ」とのこと。…なんだ、化かされていたかったなあ、とちょっとがっかり。でも、人類も遥か遥か昔には自分がナニモノだったかなんてわからないから、おキツネさんだったこともあるかもしれないしね。だから洞川のような山里の人々には記憶の底に眠るその正体が何かの拍子に仄かに香り立つことがあるような気もするんだ。
〓大峯山上豆知識「女人結界門」大峯山上ヶ岳では一千年以上前からの女人禁制という宗教的伝統を守り存続維持している。そのため山上ヶ岳周辺には「是より女人の入山を禁ず」という門が立てられて在る。 現在では天川村洞川の清浄大橋登山口、レンゲ辻、五番関、そして奥駈道中の阿弥陀ケ森の 4ヶ所である。そこから先は女性の方々には遠慮して頂いている。でも時々男性連れで結界内をあるいていらっしゃることもあり、そういう際には速やかに下りてくださるようにひたすら説明してお願いするだけであるが。これは差別などでは決して無く、歴史という永い時間の中で培われて来た「自然=人間」へのある信仰心(精神)に拠るところであると御理解してもらえたらと考える。このことについてはまた折に触れて話すことになると思うけどね。
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by tamashifull | 2011-11-30 18:29
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秋晴れのある日のこと、岡山表町の和紙(ワガミ)屋梅田さんに久し振りに柿渋を買いに行ったら、頭の天辺に筆先が生えているダルマさんが現れて、ぼくはあっという間に通りを渡って斜め向かいのカフェまで転がされて行ってしまった。
そこは「オイリア」というお店で、高い天井に白い壁が映える細長い空間に大小とりどりの深い緑の瓶がたくさん並んでいる。それらは全部オリーブオイルで、イタリアのアーリア州から直輸入しているということ。
店主は女性で、その土地とオリーブに魅せられてこのカフェをオープンされたとか。ダルマさんの計らいでここで写真展をさせて頂くことになった。…白い壁を空色で染めよう。
「空へ歩く」「空に住む」「空から流れる」「空のありか」…空につながる写真のそれぞれから空の物語をイメージしてもらえたらと想いながら作品をセレクションして並べてみると、この白い壁に昔から掛かっていたかのようにしっくりと馴染んだ。自分でも新たに展示したような気がしない、不思議な気持ちに包まれて眺めた。まるでお客さんになった気分だった。
オイリアにはオリーブオイルだけではなく、天然酵母パン、生産者直通の野菜、やさしいスイーツ、はちみつ、高梁紅茶等も楽しそうに並んでいる。それになんといってもオリーブオイルのソフトクリームがぼくは大好物。またワインを始めにアルコール類も置いていて、仕事帰りや休日の午後に寛ぐ男性もよく見かける。女性客も二人連れ以上はもちろんだが一人客も多い。かわいいテーブル席にカウンターでの会話も心地好い。通りがかりにちょっと覗いてみたくなるね。あっ、ダルマさんも時々コロンコロンしてるかも。
〓岡山市北区表町1丁目11−1中之町第1ビル
Oigliaオイリア
TEL(086)234-5232
お休みは月曜日。
朝10時から夜8時まで開いてます。
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by tamashifull | 2011-11-26 13:00