山上のいきもの「ウマレカエル」」
五月、岩陰に残る根雪はなかなか溶けない。
春から冬へ、山へ上ったばかりのぼくたちはまるで季節を逆戻りしたみたいだ。
六月、雨の匂いが濃くなって岩屋の雪もいつの間にか消え、 しっとりした土間の上、うっかり足を滑らせて、見ると足元でノソリ。 ゴトだ。 慌てて逃げるわけでもない。 冬眠から目覚めて空腹を満たしに出て来たのか。
しゃがんで覗き込んでみる。
物哀しくも浪漫な眼の色…前世は行者だったのか?お前。 そして再び山に帰って来たのか。 おそるおそる手を伸ばすと意外とツルツルしているんだ、これが。 からだの中をきれいな水が流れているんだろ、きっと。
土間で狩りをする時は、踏まれないように気を付けてな。
七月、宿坊の周りが花々の彩りで染め上げられてゆく頃、ゴトの大好物が宵闇に乗じて翔んでくる。 そう、オオミズアオだ。 でも朝なんか眼の前で鳥にパクッとさらわれてしまうこともある。 それでものそのそ…ゴトは行く。
八月、したたる緑の中でうーんと背伸びするは、まだまだ小ゴト。
生まれたからには、いっそ大ゴトになって欲しいぞ。
〔ゴト〕
紀伊半島で広く使われる方言でカエルのこと。
山上で多く生息するヒキガエルはゴトビキと言う。
その名を冠した巨岩が和歌山県新宮の神倉山に街を見下ろすようにそそり立っている。
これは古くから「南の守護石とされている。
by tamashifull
| 2011-08-19 17:55
| 写真帖